高級腕時計の世界には、誰もが一度は耳にする聖杯のような存在があります。
それが、パテック フィリップのグランドマスター チャイムです。
この時計に興味を持つ方なら、その驚くべき価格や複雑な仕組み、そしてどんな人が所有しているのかといった歴史や背景が気になりますよね?
おそらく皆さんは、34億円というオークションでの落札額や、世界初の音響機能といった断片的な情報を目にして、その実態を詳しく知りたいと思っているのではないでしょうか。
私自身、この時計について調べるほどに、その音色の美しさや、Ref. 5175やRef. 6300といったモデルごとの違いに圧倒されます。
この記事では、資産価値としての側面だけでなく、マニアックな技術の裏側まで、皆さんの疑問を解消できるよう分かりやすくお伝えしていきますね。
これを読めば、なぜこの時計が世界最高峰と呼ばれ、多くのコレクターを虜にするのかがはっきりと分かるはずです。
- グランドマスター・チャイムが開発された背景と歴史的な重要性
- 20の複雑機構がもたらす世界初の音響機能と仕組みの凄さ
- 30億円を超える市場価格とオークションでの驚愕の落札事例
- 限られた超富裕層しか手にできない購入審査と所有者の実態
パテックフィリップのグランドマスターチャイムの全貌

時計界の頂点に君臨するこのモデルが、一体どのような情熱を経て形作られたのか、その驚異的なテクノロジーの核心に迫ります。
まずは、ブランドの歴史を塗り替えたプロジェクトの壮大なスケールから見ていきましょう。
創業175周年を記念した歴史的モデルの誕生

2014年にパテック フィリップは創業175周年という、時計史に刻まれるべき大きな節目を迎えました。
この記念すべき年に向けて、社長であるティエリー・スターン氏が掲げた目標は「パテック フィリップ史上、最も複雑な腕時計を創り上げる」という、まさに至上命令ともいえる壮大なものでした。
このプロジェクトがどれほど異次元だったかというと、構想から完成までになんと7年もの歳月が費やされています。
開発に投じられた人的リソースも桁外れで、ムーブメントの製造と調整だけで6万時間、さらに研究開発や設計、精緻を極めるケーシングを含めると、合計で10万時間を超える労力が注ぎ込まれました。
これは、一人の熟練時計師が不眠不休で働いたとしても11年以上かかる計算になります。私たちが普段目にする「高級時計」の枠を完全に超越した、全社を挙げた国家プロジェクト級の挑戦だったわけですね。
アニバーサリーモデルに込められた伝統と革新
パテック フィリップにとって、周年記念モデルは単なる「お祝いの品」ではありません。
1989年の150周年には当時世界最高の複雑さを誇った懐中時計「キャリバー89」を、2000年には「スターキャリバー2000」を世に送り出してきました。
グランドマスター・チャイムは、これら偉大な先達の系譜を受け継ぎつつ、さらに「腕時計(リストウォッチ)」という極限のサイズにその技術を凝縮させた点に、歴史的な価値があるのかなと思います。
この時計の開発にあたって、スターン社長は「音色のクオリティ」に対して一切の妥協を許さなかったそうです。
パテック フィリップには「全てのミニット・リピーターの音を社長自らが聴いて検査する」という伝統がありますが、このモデルはその最高峰として、聴く人の魂を揺さぶるような音響美を目指して作られました。
20の複雑機構を備えた驚異の仕組みを解剖

この時計の心臓部には、手巻きムーブメント「Caliber 300 GS AL 36-750 QIS FUS IRM」が搭載されています。
この呪文のような英数字の羅列が示すのは、搭載された数々の機能の略称です。
驚くべきは、直径37mm、厚さ10.7mmという、腕時計として許容されるわずかなスペースの中に、1,366個もの精密部品が整然と組み込まれていることです。
ケースを含めた総部品数は1,580個に達し、一般的な機械式時計が100個から200個程度の部品で構成されていることを考えれば、その密度がいかに異常であるかが分かりますよね。
内部はまさに「小さな宇宙」であり、パテック フィリップの先進技術であるシリコン素材の「SpiromaxR」製ヒゲゼンマイなども採用されています。
これにより、複雑機構の天敵である磁気帯びのリスクを軽減し、長期的な精度安定性を確保しているんです。
エネルギー管理の極致「ダブル・バレル・システム」
20もの機能を、それもエネルギー消費の激しい音響機構を含めて動かすには、電力でいうところの「バッテリー管理」が最大の課題になります。
そこで採用されたのが、ムーブメント用とストライクワーク(音響用)で香箱を分ける独立システムです。
| 機構の種類 | パワーリザーブ時間 | 役割 |
|---|---|---|
| ムーブメント用 | 約72時間 | 時刻表示、カレンダーの駆動 |
| ストライクワーク用 | 約30時間 | ソヌリ、アラーム等の音響駆動 |
この工夫により、たとえ毎正時やクォーターごとに鐘を鳴らし続ける「グランドソヌリ」モードにしていても、24時間以上の連続稼働を可能にしています。
従来の複雑時計では数時間で止まってしまうことも珍しくなかったため
これは技術的な大躍進と言えるでしょう。
世界初の機能を搭載した芸術的な音色の魅力

「グランドマスター・チャイム」という名の通り、この時計の魂は「音(Chime)」に宿っています。
搭載された20の機能のうち、5つが音響に関連するものであり、その多様性と美しさは他の追随を許しません。
特に注目すべきは、時計史にその名を刻むことになった2つの世界初の特許機能です。
1. チャイムによるアラーム機能 (Alarm with Time Strike)
これまでの機械式アラーム時計といえば、ジリジリという金属的なブザー音や、単調なゴング音が一般的でした。
しかし、このモデルのアラームは次元が違います。
設定した時刻になると、なんとミニット・リピーターと全く同じ複雑なシーケンスで「時・クォーター・分」をメロディとして奏でるのです。
例えば朝7時30分にセットすれば、7回の低音と2回の高低音で、美しい調べと共に目覚めることができる。
これこそ、富裕層が夢見た究極の贅沢ではないでしょうか。
2. デイトリピーター (Date Repeater)
もう一つの革新が、日付を音で知らせる機能です。
カレンダーの情報を音に変換し、10日単位を「ディン・ドン」というダブルトーンで、1日単位を「ディン」という高音で告げてくれます。
「23日」であれば、2回のダブルトーンと3回の高音が響くわけです。
この機能、実はある顧客の「日付も耳で確認したい」という何気ない一言から開発が始まったというエピソードがあります。
顧客の夢を、どんなに困難でも形にしてしまう
パテック フィリップの技術力には脱帽してしまいますね。
これほど複雑な音響機構は、操作を誤るとムーブメントが破損するリスクがあります。
しかし、この時計には「アイソレーター」という特許機構が備わっており、特定のモード中は設定ボタンが無効化されるなど、徹底した誤操作防止策が講じられています。
繊細な芸術品でありながら、安心して使えるよう設計されているんですね。
Ref.5175と6300の違いと技術的特徴
グランドマスター・チャイムに興味を持つと、必ずぶつかるのが「Ref. 5175」と「Ref. 6300」という2つのリファレンス番号です。これらは中身のムーブメントこそほぼ共通ですが、外装のコンセプトが全く異なります。
自分ならどちらが好みかな?なんて想像するだけでも楽しいですよ。
まず「Ref. 5175」は、175周年を記念して作られた、まさに「お祭り」の主役です。
ローズゴールドのケース全面に、熟練の職人による手彫りの「月桂樹(ローレル)」のモチーフが施されており、非常にデコラティブでバロック的な美しさを放っています。
一方、2016年からレギュラーコレクションに加わった「Ref. 6300」は、ホワイトゴールドなどの素材を用い、ケース側面には幾何学的な「クル・ド・パリ(ホブネイル)」のギヨシェ装飾が施されています。
より現代的で、日常の装いにも(といっても数億円ですが)馴染むような洗練されたデザインが特徴です。
| 比較項目 | Ref. 5175R-001 | Ref. 6300G-010 |
|---|---|---|
| 素材・カラー | ローズゴールド | ホワイトゴールド / ブルー文字盤 |
| ケース装飾 | 手彫りの彫金(月桂樹) | ギヨシェ装飾(クル・ド・パリ) |
| 主な印象 | 伝説的・芸術品としての華やかさ | モダン・技術的な精悍さ |
| 希少性 | 世界7本(販売は6本) | 極少数の継続生産 |
個人的には、歴史の重みを感じさせる5175の彫金も捨てがたいですが、6300シリーズのブルー文字盤の凛とした表情も、パテック フィリップらしくて素敵だなと感じます。
どちらにせよ、手に入れることができるのは世界で一握りの幸運な方々だけなのですが……。
独創的なリバーシブルケースとデザインの美学

グランドマスター・チャイムを一目見て「普通の時計とは違う」と感じさせる最大の要因は、表裏の両面に文字盤を持つ「ダブルフェイス」の構造にあります。
時計を腕に装着したまま、ケースをくるりと反転させることができるこの仕組み、実はこれ自体がパテック フィリップの特許取得済みメカニズムなんです。
表面の「時刻面」は、クラシックなギヨシェ装飾が施され、ゴールドのブレゲ数字が並ぶ伝統的なパテックの顔をしています。一方で、裏面の「カレンダー面」は、永久カレンダーの情報を整理して表示する、どこか計器的な機能美を感じさせるデザインになっています。
驚くべきは、この2つの面を切り替える反転機構(ラグ部分に組み込まれた回転軸)の開発だけで4年を要したという事実です。
滑らかに回り、かつ「カチッ」と完璧にロックされるその感触は、まさに工芸品としての極致といえるでしょう。
両面どちらでも日常を共にできる工夫
通常、リバーシブルの時計は「裏面はあくまでサブ」ということが多いのですが、このモデルは違います。
日付情報はどちらの面にも表示されるようになっているため、どちらを「表」にして着用していても、今日が何日かを確認するのに困ることはありません。
直径47.7mm、厚さ16.1mmというサイズは腕時計としては最大級ですが、そこに込められた1,580個の部品と、それを包み込む彫金やギヨシェの美しさを考えれば、このボリュームこそが正義なのかなと思いますね。
もはや、腕に乗せることができる「美術館」そのものです。
(出典:パテック フィリップ公式『グランド・コンプリケーション 6300GR-001』)
パテックフィリップのグランドマスターチャイムの価値
ここからは、多くの時計ファンが驚愕し、時には溜息を漏らす「価値」の話に移りましょう。
なぜ、この時計はこれほどまでに高額で取引され、世界中の富豪が喉から手が出るほど欲しがるのでしょうか?
その背景にある、現実離れしたマーケットの真実を探ります。
オークションで34億円を記録した市場価格

2019年、スイスのジュネーブで開催されたチャリティオークション「Only Watch 2019」において、時計界の常識を根底から覆す出来事が起きました。
出品されたのは、この世にたった一本しか存在しないステンレススティール製のグランドマスター・チャイム「Ref. 6300A-010」です。
最終的にハンマーが叩かれた落札額は、驚愕の3,100万スイスフラン。
当時の日本円にして約34億円という、腕時計史上最高額(当時)を記録しました。
「なぜ金やプラチナではなく、ステンレス製が一番高いのか?」と不思議に思う方も多いでしょう。
実はパテック フィリップにおいて、超複雑機構をあえてステンレスケースに収めるのは「極めて異例なこと」であり、コレクターの間ではゴールドモデルよりも遥かに希少価値が高いとみなされるんです。
34億円という価格は、単なる物の値段というより、この時計が持つ「技術的頂点」と「唯一無二の希少性」に対して、世界のトップコレクターたちが敬意(と情熱)を払った証なのだと言えるでしょう。
レギュラーモデルの市場価格と資産性
レギュラーといわれるRef. 6300Gなどでも、その価格は数億円単位です。
しかし、これほどの金額を払ってでも購入したいという希望者が後を絶たないのは、この時計が「持っているだけで価値が上がる」資産としての性格を強く持っているからです。
世界経済がどれほど揺れ動こうとも
「パテック フィリップの最高傑作であればその価値は不変である」
という強い信頼がこのマーケットを支えているんですね。
ジェイ・Zやスタローンなど著名な所有者
パテック フィリップ グランド マスター チャイムを所有することは、もはや究極のステータスシンボルです。
実際にこの時計を愛用している人物として有名なのが、アメリカの音楽界の重鎮ジェイ・Z(Jay-Z)です。
彼は自身の50歳の誕生日イベントなどでRef. 6300Gを堂々と着用しており、その姿は現代における「成功の象徴」として大きな注目を集めました。
彼のセンスはクラシックな時計を
現代のストリートやハイエンドな文化と見事に融合させていますよね。
また、インド一の大富豪アンバニ家の御曹司、アナント・アンバニ氏も、自身の結婚関連のイベントでハイジュエリー版のグランドマスター・チャイムを着用している姿が目撃されています。
これほどの時計になると、もはや個人が所有するというよりは「一族の宝」として受け継がれていくような存在なのかもしれません。
俳優のシルベスター・スタローンが、自身のRef. 6300Gをオークションに出品し、約8億4000万円で落札された件は記憶に新しいところです。
しかし、これが「未開封(プラスチックスリーブに入ったままの状態)」での出品だったため、ブランド側が掲げる「次の世代へ受け継ぐために使ってほしい」という理念に反すると、時計ファンの間で大きな議論となりました。
こうした「転売」とみなされる行為は、ブランドとの信頼関係を損なうリスクがあるため、注意が必要なトピックです。
厳格な審査を通過したコレクターのみの条件

さて、ここが最も驚くべき点かもしれませんが、この時計はたとえ数億円のキャッシュを持っていたとしても、お店に行って「これください」と言って買えるものではありません。
購入を希望する人は、まず正規販売店を通じてスイスの本社に、自身の時計遍歴やパテック フィリップへの想いを綴った「アプリケーション(申請書)」を提出する必要があります。
「過去にどのモデルを買ってきたか」
「どれだけブランドの哲学を理解しているか」
「すぐに転売して利益を得ようとしていないか」……。
これらを総合的に判断し、パテック フィリップの「真の家族(アンバサダー)」としてふさわしいと認められた人だけに、ようやく購入の権利が与えられるのです。
私のような一般ファンからすれば
その審査をパスすること自体が、ある種の勲章のようなものなのだろうなと感じます。
資産価値を維持するためのメンテナンス体制
パテック フィリップは「永久修理」を謳っていますが、グランドマスター・チャイムのような超複雑時計に関しては、そのメンテナンス体制も特別です。
世界中のどこで購入したものであっても、修理が必要になった際には必ずスイス・ジュネーブの本社へ送られます。
そこには、この複雑極まる1,580個の部品を熟知した「専任のマスター・ウォッチメーカー」がおり、彼らだけが分解・調整を許されているのです。
当然、メンテナンスにかかる費用や期間も異次元です。
オーバーホール一回につき、数百万円単位の費用がかかるとも囁かれており、期間も数ヶ月から一年近くかかることも珍しくありません。
また、この時計には防水性能が備わっていない(湿気や埃をガードする程度)ため、雨の日や水回りでの使用は絶対に厳禁。
こうした細心の注意を払いながら維持していくこと自体、所有者に求められる「作法」なのかもしれません。
資産としての魅力は計り知れませんが、維持コストや取り扱いの難易度も非常に高いモデルです。
もし幸運にも購入を検討される立場にある方は、正規店でのカウンセリングを通じて、最新のメンテナンス規定や保証内容を十分に確認されることを強くお勧めします。
パテックフィリップのグランドマスターチャイムの軌跡
ここまで、パテック フィリップ グランド マスター チャイムという「時計界の至宝」について、多角的な視点から紐解いてきました。いかがでしたでしょうか?
34億円という落札価格の裏には、10万時間という途方もない歳月と、職人たちの執念にも似た情熱が隠されています。そして、ジェイ・Zのような現代のアイコンたちが愛用することで、その神話は今この瞬間も更新され続けています。
私たちのような時計好きにとって、この時計は一生に一度お目にかかれるかどうかという遠い存在かもしれません。しかし、その音色の美しさや、複雑な歯車の噛み合わせに想いを馳せることは、高級時計の真髄を知るための素晴らしい旅になるはずです。
これからもパテック フィリップ グランド マスター チャイムは、最高峰を目指すすべての時計職人とコレクターにとって、永遠の北極星であり続けることでしょう。
※本記事の内容は、2026年時点の市場データおよび公表情報を基にした masa 個人による考察です。実際の価格や購入条件、サービス内容は変更される可能性があるため、最終的な情報はパテック フィリップ公式サイトまたは正規販売店にてご確認ください。
最後までお読みいただきありがとうございました!
皆さんの時計ライフが、より豊かで情熱的なものになることを願っています。


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