時計好きなら誰もが一度は憧れる、まさに「上がりの時計」とも称されるアンティークのパテック フィリップ。
その圧倒的なオーラと歴史的背景には心を奪われますが、いざ購入しようと一歩踏み出すには、かなりの勇気と覚悟が必要ですよね。
「資産価値が高いとは聞くけれど、本当に値崩れしないのか?」
「メンテナンス代で破産しないか?」
「そもそも、自分のような素人が偽物を掴まされずに買えるのか?」……
特に昨今は、純粋な趣味としてだけでなく「投資対象」として注目されることも増え
市場の動向が複雑化しています。
Ref.96(クンロク)やRef.570といった伝説的なモデルの相場はどう動いているのか、そして私たち買い手はどこを見るべきなのか。
この記事では、私自身が「アンティーク パテック フィリップ」という底なしの沼(笑)に足を踏み入れるにあたって徹底的に調べ上げた、専門店選びのリアルな基準や、プロが見ている真贋のポイント
教科書的な知識だけでなく、実際に市場を見て感じた肌感覚も含めてお伝えできればと思います。
- 人気モデル「カラトラバ」の最新相場と価格推移のリアルな現状
- 資産価値を維持するために不可欠な「アーカイブ」と「コンディション」の条件
- 購入後に後悔しないための修理費用(オーバーホール)とメンテナンスの選択肢
- 致命的な「リダンダイヤル」や精巧な偽物を回避するための知識
アンティーク パテック フィリップの資産価値と魅力

ここでは、なぜ数あるアンティークウォッチの中でパテック フィリップだけが別格扱いされ、これほどまでに高額で取引されるのか、その核心に迫ります。
単なる「古い時計」ではなく、世界中のコレクターが血眼になって探す「資産」としての市場メカニズムや、具体的なモデルが持つ魔力について深掘りしていきましょう。
中古市場で人気の高いカラトラバの価格相場

アンティーク パテック フィリップを語る上で、避けては通れないのが「カラトラバ(Calatrava)」の存在です。
特に1932年、当時のスターン兄弟が経営権を握った直後に発表されたRef.96、通称「クンロク」は、ブランドのアイコンであり、すべてのドレスウォッチの原点とも言えるモデルです。
Ref.96のケースサイズは約30.5mm~31mm。現代の40mm前後の時計を見慣れた目には「小さすぎる」と映るかもしれません。しかし、実際に腕に乗せてみると、その凝縮されたデザインバランスの完璧さに驚かされます。
ケースからラグへと流れる一体感のあるライン、視認性を極限まで高めた文字盤
そして無駄を一切削ぎ落とした「機能美」は、哲学そのものです。
気になる現在の市場相場ですが、最も一般的なイエローゴールド(YG)モデルで150万円~250万円前後で推移しています。ここ数年でじわじわと底上げされている印象ですね。
特に、搭載されている手巻きムーブメントCal.12-120の評価が非常に高く、耐久性と美しさを兼ね備えた名機として知られています。
一方で、近年猛烈な勢いで価格が高騰しているのが、Ref.96のデザインコードをそのままサイズアップさせたRef.570、通称「ビッグカラトラバ」です。
1938年に登場したこのモデルは、ケース径が35mm~36mmあり、現代のメンズウォッチとしても違和感のないサイズ感が最大の特徴です。
デザインは似ていますが、Ref.570は「現代的な実用サイズ」であることと、Ref.96に比べて「製造数が圧倒的に少ない」という希少性から、価格はRef.96の2倍~3倍になることがザラです。
イエローゴールドでも400万円~800万円、ホワイトゴールドやプラチナなどのレア素材になると、優に1,000万円を超えてきます。
「小さいからこそ凝縮感があって良い」という玄人好みのRef.96に対し「資産性と実用性を兼ね備えた」Ref.570。
どちらを選ぶかは予算と好み次第ですが、どちらも資産価値がゼロになることは考えにくい、鉄板のモデルであることは間違いありません。
投資価値を左右する状態とアーカイブの重要性

パテック フィリップが、ロレックスやオメガなどの他ブランドと決定的に異なり、資産として強固な地位を築いている最大の理由。
これは、パテック フィリップ社が創業以来製造したすべての時計の台帳(アーカイブ)を保管しており、申請すれば「その時計がいつ製造され、いつどこの国で販売されたか」を公式に証明してくれる書類を発行してくれるサービスです。
手数料は現在500スイスフラン(約8万円~)かかりますが、この紙一枚があるかないかで、時計の価値は天と地ほど変わります。
投資的な視点でアンティークパテックを選ぶなら、以下の2点は絶対に妥協してはいけない「聖域」だと思ってください。
1. アーカイブが取得可能であること
アーカイブが発行されない、あるいは発行不可となる個体は、過去に「改造」されたり、盗難品であったりする可能性があります。
アーカイブがない個体は、将来手放すときに買取店から拒否されるか、相場の半値以下で買い叩かれるリスクが極めて高いです。
購入時は「アーカイブ付属」または「アーカイブ取得可能保証」がついている個体を強く推奨します。
2. ケースのコンディション(ノンポリッシュ)
アンティーク時計において「傷」は歴史の証ですが、「痩せ」は価値の損失です。
過去のオーナーや修理業者が、傷を消そうとしてケースを研磨(ポリッシュ)しすぎると、パテック特有のシャープなラグの角が丸くなり、ケース全体が痩せてしまいます。
市場では、多少の小傷が残っていても、オリジナルの形状を留めている「ノンポリッシュ(未研磨)」に近い個体が最高評価を得ます。
逆に、ピカピカでも丸まってしまったケースは、コレクターからは見向きもされません。
アンティークパテックの価値 = 「モデルの人気」×「希少性」×「アーカイブの有無」×「ケースの状態」
買取価格が高騰する希少モデルの特徴と傾向
市場をリサーチしていると、時折「えっ、シンプルな3針の時計が数千万円?」と目を疑うような価格がついていることがあります。
これには明確なロジックがあります。
アンティークパテックの世界では、「当時は不人気で製造数が少なかった仕様」こそが、現代において最強の資産価値を生むのです。
その代表格が「ステンレススチール(SS)」素材のモデルです。
1940年代~50年代当時、高級時計といえば「金無垢(ゴールド)」が当たり前でした。
あえて高級ムーブメントを安価なステンレスケースに入れる需要は少なく、製造数は極端に少なかったのです。
しかし現代では、その希少性と普段使いしやすい素材感から、SSモデルは「聖杯」と呼ばれ、ゴールドモデルの10倍以上の価格で取引されることも珍しくありません。
Ref.96やRef.1463(タスティ・トンディ)のSSモデルがオークションに出れば
億単位の入札合戦になることもあります。
また、ムーブメントで言えばRef.2526「トロピカル」も別格です。
1953年に発表されたパテック初の自動巻きモデルですが、このモデルの凄まじさは「エナメル文字盤」にあります。
金属の板にガラス質の釉薬を塗り、800度の高温で焼き上げる工程を繰り返して作られるこの文字盤は、陶磁器のような深い艶を持ち、半永久的に変色しません(だからこそ、強い日差しの熱帯地域でも耐えられる=トロピカルと名付けられました)。
しかし、エナメルは製造過程で割れる確率が高く、歩留まりが最悪でした。
さらに完成後も衝撃に弱く、落下などで「ヘアライン(ヒビ)」が入ってしまう個体が非常に多いのです。
偽物やリダンダイヤルを見分けるポイント

これは本当に恐ろしい話ですが、アンティーク市場には「リダン(Redone / Refinished)」と呼ばれる、書き換えられた文字盤を持つ個体が非常に多く流通しています。
経年劣化で汚れてしまった文字盤を、業者がきれいに塗装し直し、ロゴやインデックスを描き直したものです。
ロレックスなどのスポーツモデルでは、雰囲気重視で安価に楽しむために許容される文化も一部ありますが
パテック フィリップにおいてリダンは「致命傷」であり、資産価値はほぼゼロに等しくなります。
私たち素人がプロの仕事を見抜くのは至難の業ですが、最低限チェックすべきポイントを知っておくことで、地雷を踏む確率は下げられます。
- ロゴの書体:「PATEK PHILIPPE」や「GENEVE」の文字をルーペで見た時、インクが滲んでいないか?また、フォントの「はね」や「はらい」が不自然ではないか?(オリジナルの版は極めてシャープです)
- エナメルの質感:Ref.2526などのエナメル文字盤の場合、オリジナルはロゴの文字が焼成によってわずかに盛り上がっています。リダンはのっぺりと平坦なことが多いです。
- スイス表記:6時位置の「SWISS」のみの表記か、あるいは「σ SWISS σ」(シグマダイヤル)か。製造年代と表記の整合性が取れているか?
- アーカイブとの照合:アーカイブには文字盤の種類(例:ブレゲ数字、バーインデックスなど)が記載されています。実物と書類の記述が一致しているかは基本中の基本です。
特に「相場より明らかに安い」個体には、必ず何らかの理由(リダン、ケース痩せ、部品交換など)があります。
パテック フィリップの世界に「掘り出し物」は存在しない、と肝に銘じておくのが賢明です。

ノーチラスなどスポーツモデルの市場動向
厳密には「アンティーク」ではなく「ヴィンテージ」や「ネオヴィンテージ」に分類される年代ですが、1976年に登場した初代ノーチラス Ref.3700/1A、通称「ジャンボ」の動向も無視できません。
天才デザイナー、ジェラルド・ジェンタが手掛けたこのモデルは
現在のラグジュアリースポーツウォッチ(ラグスポ)ブームの原点にして頂点です。
2020年から2022年にかけての異常な価格高騰バブルは、2024年以降ようやく落ち着きを見せました。
しかし、これは暴落というよりは「調整」であり、投機的なマネーが抜けて「本当に状態の良い個体が、適正な高値で取引される」という成熟したフェーズに入ったと言えます。
Ref.3700に関しては、時計本体の状態はもちろんですが、付属品の有無が価格を大きく左右します。
特に、初期モデルに付属していた「コルク製のボックス」は、経年劣化でボロボロになりやすく現存数が少ないため、これの有無だけで数百万円の査定差が出ることもあるほどです。
また、Ref.3700はサイズが42mmと大きいため、1981年に登場した37.5mmサイズのRef.3800への再評価も進んでいます。
日本人の手首にはRef.3800の方が収まりが良く、ムーブメントも自社製キャリバーに進化して秒針(センターセコンド)が付いたため、実用性を重視する層から熱い支持を集めています。
アンティーク パテック フィリップの購入と修理戦略
欲しいモデルが決まり、予算の目処が立ったとしても、それでゴールではありません。
むしろ、「どこで買うか」「買った後どう維持するか」という現実的な問題こそが、アンティークウォッチライフの成否を分けるカギとなります。
ここでは、購入からアフターサービスまで、私がリサーチして辿り着いた「失敗しないための戦略」を解説します。
東京でおすすめの販売店と専門店の選び方

アンティーク パテック フィリップを購入する際、最も重要なのは「個体」ではなく「お店」を選ぶことです。
ネットオークション(ヤフオクやメルカリ)や個人売買は、偽物や「ガッチャ(寄せ集め)」のリスクが極大化するため、初心者は絶対に避けるべきです。
東京の銀座、新宿、中野、青山などには多くの高級時計店がありますが、私が「ここなら安心できる」と判断する基準は以下の3点です。
アーカイブ取得を前提としているか
「アーカイブ取得済み」の個体をメインに扱っている、または購入時に「アーカイブ取得代行」をしてくれて、万が一取得できなかった場合は全額返金保証があるお店。
「修理」に強いバックボーンがあるか
自社内に熟練の時計技師がいる、あるいは国内トップクラスの修理工房と提携しているお店。売るだけのブローカー的なお店は避けた方が無難です。
不都合な真実を隠さないか
「この文字盤は過去に洗浄されています」「リューズは交換されています」といったネガティブな情報を、聞く前に開示してくれる店員さんがいるお店は信頼できます
また、アンティーク時計専門店の中には、将来その店で買い換える際に、購入金額の一定割合(例:70%~80%)での買取を保証する「買い戻し保証」を設けているところもあります。
これは資産防衛の観点からも非常に有効なシステムですね。
「買い戻し保証」に関しては、以下の記事で詳しく解説しています
購入後のオーバーホール費用と維持費の目安
「パテック フィリップは一生もの」という言葉は真実ですが、それは「お金をかけ続ければ、一生(あるいは孫の代まで)使い続けられる」という意味でもあります。
維持費に関しては、ある程度の覚悟が必要です。
アンティークウォッチは、通常3年~5年に一度の「オーバーホール(分解掃除)」が必要です。
油切れの状態で使い続けると、歯車が摩耗して取り返しのつかないダメージを負ってしまいます。
| モデルタイプ | メンテナンス費用の目安 | リスクと備考 |
|---|---|---|
| 手巻き(3針) Ref.96, Ref.570等 |
5万円~10万円 | 比較的構造がシンプルで、部品も丈夫。定期的な注油で長く使える。 |
| 自動巻き Ref.2526等 |
8万円~15万円 | ローター周りの摩耗に注意。特にRef.2526の18Kローターは重いため軸への負担が大きい。 |
| クロノグラフ Ref.1463等 |
15万円~30万円 | 部品点数が多く、調整に高度な技術が必要。部品交換が必要になると費用は跳ね上がる。 |
| 永久カレンダー Ref.1518等 |
50万円~数百万円 | 神の領域。維持費も桁違い。基本的にはスイス送りになる覚悟が必要。 |
これらはあくまで「定期メンテナンス」の目安であり、部品交換やケースの修復が必要になった場合は、さらに費用が加算されることを忘れないでください。
正規修理と民間工房のメリットを比較検討

パテック フィリップのオーナーになる最大のメリットの一つは、メーカーが公言する「永久修理」のコミットメントです。創業1839年以来のすべての時計について、修理や修復を受け付けるという姿勢は、他ブランドにはない圧倒的な安心感です。
しかし、これには現実的なハードルもあります。
古いモデルの場合、国内のサービスセンターでは対応できず、スイスのジュネーブ本社へ送られる(通称:スイス送り)ことになります。
こうなると、見積もりだけで数ヶ月、修理完了まで1年~2年かかることもザラです。費用も、部品を一から製作(レストレーション)する場合は、数百万円単位になることもあります。
そこで選択肢となるのが
国内の技術力の高い「民間修理工房」です。
元メーカー出身者など、凄腕の職人さんがいる工房であれば、Ref.96などのシンプルなモデルなら、正規の半額以下の費用と数ヶ月の期間で完璧に仕上げてくれます。
私の推奨する使い分け戦略
- 日常使いするRef.96やRef.570:信頼できる「民間修理工房」で、こまめにメンテナンスを行いながらガシガシ使う。
- 資産として保管する超希少モデルや複雑時計:費用と時間はかかっても「正規カスタマーサービス」へ出し、メーカーの修理明細(これがまた強力な真正性の証明になります)を取得して価値を高める。
- (出典:パテック フィリップ公式サイト)
委託販売を利用する際の注意点と仕組み
最後に、「出口戦略」についてもお話ししておきましょう。
もし将来、コレクションの整理や買い替えで手持ちのアンティークパテックを手放すことになった場合、一般的な買取店に持ち込むのは少しもったいないかもしれません。
おすすめなのは、専門店での「委託販売」です。
これは、お店に時計を預けて、自分の代わりに販売してもらうシステムです。お店側は在庫リスクを負わないため、販売価格から手数料(一般的に10%~20%程度)を引いた額をオーナーに支払います。
通常の買取(お店が在庫リスクを負うため、安く買い取る必要がある)に比べて、手取り額が圧倒的に高くなるのがメリットです。
最大のデメリットは「現金化に時間がかかる」ことです。
売れるまで数ヶ月、長いと1年以上かかることもあります。
また、預けている間にお店が倒産して時計が戻ってこない……という最悪のケースもゼロではありません(実際に過去に有名店で起きた事例もあります)。
委託販売を利用する際は、多少手数料が高くても「経営基盤が安定している有名店」や「回転が速く、顧客リストを多く持っているお店」を選ぶことが鉄則です。
アンティーク パテック フィリップを楽しむ結論
アンティーク パテック フィリップの世界は、知れば知るほど奥が深く、一度足を踏み入れると抜け出せない魅力があります。
Ref.96やRef.570といった名作たちが放つ、静かだけれど力強いオーラは、現行品のキラキラした時計にはない独特の「重み」と「品格」があります。
しかし、歴史的な背景を理解し、適切なモデルを選び、アーカイブで素性を確認し、信頼できる主治医(修理店)を見つけることができれば、これほど頼もしい「腕につける資産」は他にありません。
まずは焦らず、色々なお店を回って実物を手に取り、自分のライフスタイルや予算に合った「運命の一本」を探すところから始めてみてはいかがでしょうか。
その一本は、きっとあなたの人生を豊かにし、次世代へと受け継がれる宝物になるはずです。


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